リアル強盗コント




大学時代、僕はデイリーヤマザキという前衛的なコンビニエンスストアでアルバイトしていた時期がある。 しかも深夜バイト。 あるバイトの日、客がいないのをいいことに、いつものようにバックヤード(控え室)で廃棄になった弁当をむさぼり食っていると、店に1人のおっさんが入ってきた。 僕は口にごはんを含んだまま 「いらっしゃいませ〜」 と元気よく店内に飛び出して行き、おっさんが商品を持って来るのを今や遅しとレジで待っていた。 おっさんは店内をぐるりと一周し、おにぎりコーナーで好みのおにぎりを物色し、やがて選び抜かれた3つのおにぎり持ってレジまでゆらりゆらりとやって来た。 近くでおっさんを見てはじめてわかったんだけど、おそらくこの人は「おっさん」ではなく「おじいさん」と呼ばれる年齢の人だ。 しかも服はボロボロで体はよろよろ、手には宅八郎モデルの紙バック。 雰囲気はいかにもホームレスといった感じ。 とりあえず僕は 「おにぎりは温めますか?」 と天使のような声で問いかけると、そのおじいさんは低い声で次の言葉をつぶやいた。


「金を出せ。。。」


・・・ 僕は一瞬何を言われたのかわからなくて 「・・・え?」 と聞き返すと、おじいさんはご丁寧にもう一度、


「だから金を出せって。。。」


と言って、持っていた宅八郎モデルの紙バックの中から包丁を取り出し、僕に突きつけてきた。 僕は一瞬パニックになってしまって 「え・・ おにぎりは・・・温めますか?」 と再度聞いてしまったら、おじいさんは 「今おにぎりなんてどうでもいいんだよ!」 と正論を振りかざしてくるではありませんか。 そうです、今おにぎりなんてどうでもいいんです。 つまりこのおじいさんはコンビニ強盗なのです。 これはマズい事です。 まるでお笑いの強盗コントに自分が出演させられているような感覚に陥ってしまいました。 しかしこの状況を理解してしまった僕は、そのとき自分でもおどろくほど冷静になっていました。 「このじじいやっつけたら明日学校でみんなに自慢できるやんけ」 とエロい事しか浮かばなくなっていたのです。 もうそうなったら戦闘モードです。 頭の中ではドラクエ3の戦闘シーンの音楽が流れはじめていました。 一応僕は学生時代はずっとラグビーをやっていたので、こんなじじいを倒すぐらい余裕のヨっちゃん(野村義男)なのです。 このじじいを倒したところで経験値2ぐらいしかもらえないだろうし、強盗に入るくらいだから1ゴールドぐらいしか持っていないだろうけど、こういう悪人を野放しにしていては未来のある子供達に悪影響だと考えた正義感あふるる僕は、強盗に攻撃を仕掛けたのです。




「ちえすとー!!」



ズバズバズバ!ごろごろガッシャーン!!



「ぶっ ぶべらー!!」




戦いは終わりました。 


僕はケンカをしたことがないし、人を痛めつけたり殴ったりすることが生理的に嫌いないので、実際にはかなりやんわりと倒しました。 そして僕はじじいが逃げないように床にうつぶせになるように指示し、その上に腰を下ろして乗っかりました。 とりあえずこうなったら次は警察に連絡しなきゃならないのでポケットから携帯電話を取り出したのですが、ここで問題が発生してしまいました。 


しまった。。 警察の番号って110やったっけ、119やったっけ。。。


ここに来てまさかのド忘れです。 だって今まで警察に電話なんてしたことなかったんだもの。 誰かに聞きたくても店内には僕と強盗じじいしかいないわけです。 仕方なく僕は強盗じじいに 「警察の番号って110でよかったんでしたっけ?」 と聞いてみたら、「そうだよ・・ は、はやく掛けてくれ・・」 と素直に教えてくれました。 やがて警察が駆けつけてくれて犯人はめでたく逮捕されたのです。 そして後日、僕は警察から感謝状と、何故だかわからないけれど1万円をもらいました。


おわり。